不正咬合のひとつに「開咬(オープンバイト)」という、奥歯で噛んでも上下の前歯に隙間ができる噛み合わせがあります。日本人の12~20歳の不正咬合の割合は60%を超えていますが、その中で開咬の割合は5.7%にあたります。数字だけで見ると少ないように感じますが、約20人に1人の割合なので珍しい噛み合わせではありません。開咬度は個人差があるので、歯並びは綺麗で軽症だとあまり気になっていない方もいるでしょう。しかし開咬度合いに関わらず、放置しているとバランスが崩れて健康な身体ではなくなってしますのです。自然に治るまで様子を見たり、自力で治す方法を探してみたりしている方は、是非目を通していただきたいです。実際に開咬は自力で治すことができるのか、開咬のリスクなどを説明していきます。
目次
開咬について
開咬は歯並びが良くても咬み合わせに問題があり、力を入れて噛んでも前歯に隙間ができてしまう状態です。この隙間が少ないと見た目や日常生活への支障も少ないので、自覚していない方も多いと思います。しかし正常な噛み合わせは、奥歯で噛んだ時に上の前歯が下の前歯が2~3㎜程度かぶさっている状態です。上下の前歯の切端が当たっている噛み合わせは「切端咬合」と言い、症状の軽い開咬と似ていますが、上下の前歯部に隙間はないので開咬とは噛み合わせの状態が異なります。どちらにしても不正咬合であり、リスクが高いので治療が望ましいです。開咬の原因は「骨格性」と「歯槽性」の2種類あります。
1)骨格性開咬
骨格的に問題がある場合の開咬で、両親や親族から遺伝することが多いです。下顎角が開大したり、下顎枝が短かったり、下顎面高が大きかったりする特徴があります。
2)歯槽性開咬
歯の生え方による場合の開咬で、幼少期から長期間行っていると前歯に隙間が生じてしまう悪習癖があります。
・指しゃぶり
・舌突出癖
・咬唇癖
・口呼吸
これらの癖が噛み合わせや歯並びに悪影響を与え、開咬の原因にもなります。
自力で治すことができる?
開咬は顎の変形や歯並びの乱れが原因なので、自力で改善することは不可能です。
基本的に歯列矯正を行い、歯並びや噛み合わせを整えることで治ります。しかし骨格性開咬の場合は外科手術と歯列矯正が必要になるケースもあるので、気になる場合は歯科医院に相談しにいきましょう。
このように歯並びや噛み合わせを変えることは、自力ではできないですが、原因を治すと開咬の予防に繋がります。顎の成長は上顎が10歳頃にはほとんど完成し、下顎は14歳頃にピークを迎えます。成長時期に上記で述べた悪習癖を行っていると正常に成長しなくなるので、幼少期の内に周りの方が気付いて改善することが望ましいです。また、悪習癖が改善できていないと治療した歯並びや噛み合わせも元に戻ってしまう可能性があります。そのため、まずはご自身の生活習慣で悪習癖がないか確認し、心当たりがあれば改善するように頑張りましょう。悪習癖の改善が直接開咬の治療にはなりませんが、まず初めに悪習癖の改善をすることで、治療をスムーズに進めたり、治療後の後戻りを防ぐことができます。
悪習癖は無意識に行っているので努力が必要ですが、意識をして自力で治すことができるでしょう。それでも改善が難しい場合は、お口周りの筋肉の機能を正常に働かせるトレーニング(口腔筋機能療法)を行ったり、舌が前に出てこないようにタングクリブという矯正装置を使用する方法もあります。普段からお口の習慣や姿勢を意識することは、身体にとっても良い事なので大切にしてください。
開咬によるリスク
開咬がきっかけで様々な悪影響が起こり得ます。見た目にコンプレックスを感じると治療するきっかけになりますが、あまり気にならないと放置しがちです。若い内は何も症状が出なくても、年齢を重ねるごとに身体の不調を感じるようになるので、なるべく早めに治療することが健康作りになります。矯正治療への第一歩になるために、まずは開咬によるリスクを理解しましょう。
1)虫歯や歯周病のリスクが高くなる
歯が重なっていたり、デコボコに並んでいる場合は、歯ブラシが当たりにくいので磨き残しやすくなります。汚れが残っていると菌が増殖して虫歯や歯周病のリスクが高くなります。比較的歯並びの良い開咬の方もいますが、噛み合わせやお口周りの筋肉の低下によって、口呼吸やお口が常に開いた状態になりやすいです。そのため口腔内が乾燥し、細菌が繁殖しやすい環境になってしまうので、これもリスクが高くなる要因になります。
2)歯に負担がかかる
通常は全体的に当たるので、噛む力は分散されます。しかし開咬は前歯が当たらず奥歯が強く当たる噛み合わせなので、毎日の負担が歯にダメージを与えています。奥歯に過剰な力がかかるので、外傷で歯の神経が死んでしまったり、欠けたり折れてしまうこともあります。そして歯だけでなく、歯槽骨(歯を支えている骨)にもダメージが加わります。外傷により部分的に歯槽骨が無くなると歯が揺れてくるので、虫歯でも歯周病でもないのに歯を失うことも懸念されます。健康増進には1本でも多くの歯が大切なので、「80歳になっても自分の歯を20本以上残そ
う」という8020運動があります。2016年度の調査では51.2%の方が達成されていますが、この中に開咬や受け口の噛み合わせの方の達成者は0%でした。この結果でわかるように、過剰なダメージは早期に歯を失う原因になると考えられています。
3)咀嚼能力の低下
正常な噛み合わせでは前歯で噛み切り、奥歯で噛み砕いてすり潰すことができますが、開咬の場合は前歯での咀嚼は難しくなります。噛み合わせが悪いとしっかり噛むことができないので、不十分な咀嚼で飲み込んでしまうことになります。咀嚼には以下のような効果があります。
1 食べ物を細かくして飲み込みやすくする
2 顎や筋肉の発達を促す
3 食べこぼしの防止
4 飲み込む力の維持
5 唾液の分泌を促す
6 脳へ刺激が伝わり、満腹感や認知能力・運動能力の向上
これらは健康には欠かせないので、咀嚼機能が低下すると顔のたるみやシワ、消化不良や認知症の進行、誤嚥などが懸念されます。
4)免疫力の低下
咀嚼回数が減ると食べ物を細かく噛み砕く前に飲み込んでしまうので、胃腸に負担がかかり、消化や吸収に影響ができます。特に栄養が十分に吸収されないと免疫力が低下し、体調不良に繋がります。さらに呼吸の方法によっても免疫力に差が出ます。鼻呼吸の場合は鼻というフィルターを通して息を吸うので、菌やウイルスは遮断できますが、口呼吸の場合は外部の空気を直接体内に取り入れるので、風邪や病気になりやすいです。
5)身体の不調
不正咬合は噛み合わせがズレているので、顎関節やお口周りの筋肉が緊張してしまい、原因不明の不調に悩まされます。噛み合わせは全身のバランスを保つために重要です。しかし噛み合わせが悪いと顎関節症や肩こり、頭痛などが発症し、悪化すると腰痛や精神疾患を招く可能性もあります。
まとめ
開咬は奥歯の負担が大きい噛み合わせであり、健康リスクの要因になります。身体の不調は精神的ストレスにも繋がり、「健康」とは程遠くなってしまいます。いつまでも健康で楽しい人生を過ごすためには、噛み合わせを整えて全身のバランスを保つことが重要です。開咬は自力で改善することはできませんが、悪習癖は治すことができます。幼少期に改善できていると正常な成長を促し、不正咬合のリスクを軽減することができるので、早めに悪習癖に気付いて正しいトレーニングを行いましょう。自分の歯で食べるご飯が一番美味しく、一番の健康の秘訣です。開咬が気にならない場合でも、噛み合わせは異常なので放置せずに治療することが望ましいです。気になる方はお気軽にお問合せ下さい。