矯正治療を行う上で、抜歯が必要となることがあります。一時的にでも歯がない状態というのは、見た目に影響を及ぼすため気になるという方は少なくありません。そのため「歯のない期間は、仮歯を作ってもらえるのですか?」とご質問をいただくことがあります。結論からお伝えすると、仮歯をおつけすることは可能ですが、結婚式などのイベント時に限るなどの条件があります。患者様一人ひとりの状況によって異なるため、ご希望される場合は早めに相談するようにしましょう。今回は仮歯をつけられる時や、対応可能なケースが限られる理由などについてご説明していきます。
目次
仮歯とは?どんなときに使うの?

仮歯は一時的に入れる歯のことで『テンポラリークラウン』や『プロビジョナル』とも呼ばれています。
見た目の回復のためだけに用いられるものだと思われがちですが、他にも以下のような役割があります。
・発音
前歯の抜歯時などは空気が漏れて発音に影響することがあります。
・噛み合わせの仮調整
噛み合わせを整える際、仮歯を用いて調整していくことがあります。
・歯や歯ぐきの保護
歯や歯ぐきを細菌感染や物理的・温度的な刺激から保護するという役割もあります。また周囲の歯が動くのを防ぎ、噛み合わせが乱れないようにする役目も果たします。
具体的には、被せ物・ブリッジの製作中や、噛み合わせの調整、前歯の審美面での確認・調整などに用いられます。
時々患者様に誤解されることがありますが、仮歯は「抜歯した後の穴を塞ぐため」につけるわけではありません。
抜歯直後に“いつでも仮歯OK”ではない理由

「歯を抜いたところが治るまで期間がかかるのに、なぜいつでも仮歯を入れることができないの?」と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。
その理由は、主に以下の3つです。
①治癒が最優先のため
歯を抜いた後にできる穴を『抜歯窩(ばっしか)』といいます。抜歯後は、この部分の骨や歯ぐきの初期治癒が大切です。
仮歯による過度な圧迫・刺激は、治りを遅らせる原因となったり、歯ぐきの形を崩してしまう恐れがあります。
②感染・痛み・出血のリスク管理のため
固定式の仮歯は、歯磨きなどで清掃することが難しいものです。そのため、清掃不良による傷口の細菌感染や歯ぐきの炎症の炎症、そして痛みの生じるリスクが高くなってしまいます。
③長期計画への影響を避けるため
将来的に、インプラントやブリッジでの治療を検討している場合は、歯ぐきの形を保つことや骨の回復を妨げないようにすることが大切です。その点からすると、仮歯はない方がいいと言えるでしょう。
このように、基本的には傷口の「治癒が優先」となります。
もし見た目が気になるという場合には、短期間の仮歯装着や、取り外しが可能な仮歯にするなどの工夫が必要です。歯ぐきや骨への負担を、できるだけ抑えた選択肢を検討することになるでしょう。
結婚式・撮影・就活など“イベント時の短期対応”とは

上記でお伝えしたような理由から、当院では日常的に仮歯を入れることはおすすめしておりません。そのため当院では、「イベント前に、短期的に見た目を回復させたい」という場合に限って対応とさせていただいております。
例えば、次に上げるような一時的に見た目の回復を図りたいようなライフイベントや、お仕事の都合がある場合などです。
・結婚式、成人式
・証明写真の撮影
・プレゼン・面接
・舞台、演奏会
もしこれらのようなご予定があるようでしたら、どうぞ気軽のご相談ください。安全性や清掃性・発音への影響・写真写りなどを考慮しながら、患者様の大切な日を乗り切るための最適な方法をご提案いたします。
方法別の選択肢と特徴
仮歯といっても、抜歯部位に一時的に歯を補う方法は様々です。
この項では、方法別の選択肢とそれぞれの特徴についてご紹介していきます。
| 仮の部分入れ歯
(テンポラリーデンチャー) |
レジンポンティック(仮ブリッジの一種) | マウスピース型補綴(薄型の被覆装置) | その他短期審美手段(仮着材での部分的対応など) | |
| 特徴 | 部分入れ歯のような形で歯を補います。ご自分で着脱できるのが特徴です。 | プラスチック製の仮歯で、ブリッジと同じような形をしています。強度はありませんが、比較的自然に見せられる方法です。 | マウスピース型矯正を行う装置を加工し、装着時に歯があるように見せる方法です。 | 仮付けの接着剤などを使い、一時的にその部分に仮歯を接着することで、見た目を整える方法です。 |
| 見た目 | ◯ | ◎ | ◎ | ◯ |
| 方式 | 取り外し式 | 固定式 | 取り外し式(食事時は外す) | 固定式 |
| 清掃性 | ◎ | △ | ◎ | △ |
| 安心感 | ◯ | 負担が大きくなるケースでは対応不可 | ◎ | △ |
| 違和感 | ややあり | 比較的生じにくい | 個人差あり | 少ない |
| 治癒への
影響 |
◯ | △ | ◯ | ◯ |
| 当日までの準備期間 | 比較的短期間 | 即日または短期間 | 装置があれば即日可能。ない場合は装置作製の期間が必要 | 即日または短期間 |
仮歯の相談のベストタイミングと当日までの流れ

仮歯のご希望をされる場合は、ご予定のイベント日の2〜4週間前にはご相談ください。
早めにご相談いただくことで、デザインなどの調整をすることが可能になるからです。
仮歯装着までの基本的な流れは、以下の通りになります。
①初診相談
ご希望をお伺いいたします。
②口腔内チェック
お口の状態を確認いたします。
③仮歯の種類などのご説明
仮歯の種類や適したもののご提案をします。
④型取り・試適
仮歯を作るための型取りなどを行います。
仮歯が出来上がったら、お口に合わせて確認します。
⑤当日最終調整
装着後、最終的な調整をします。
直前のご相談でも、可能な範囲で対応いたします。ただし、期間の問題で選んでいただける方法は限られてしまいますので、ご了承ください。
仮歯の注意点(リスクとセルフケア)
仮歯を使用する際には、次のような点に注意しましょう。
・食事は慎重に行う
仮歯はあくまでも一時的な対応で、最終的な歯ではありません。硬いものを噛むと破損の原因となったり、粘着性のある食べ物を食べることによって取れてしまう可能性があります。仮歯を装着している期間中は、これらを控えていただくことが望ましいです。
・念入りに清掃をする
外せる装置の場合は、食事の度に外して洗浄し、清潔に保ちます。洗浄時は流水下で、歯磨き粉などはつけずに洗ってください。
一方、固定型の場合は、歯間ブラシやタフトブラシなどの補助清掃具が必要になります。患者様のお口の状態に合わせて、歯科医師または歯科衛生士が適切なアイテムと使い方を指導いたします。
・市販の接着剤は使わない
固定式の仮歯が取れてしまった場合、市販の接着剤でつけることはしないでください。仮歯は、歯科専用の仮着け用の接着剤を使って装着しています。
市販の接着剤を使ってしまうと、仮歯が取れなくなったり、口腔内トラブルに繋がる原因となります。
・装置は“短期利用”が前提であることを理解する
仮歯は、短期的に使用する目的で作られているものです。そのため、長期的に使用していると破損や炎症リスクが上がる原因となります。
梅田キュア矯正歯科の仮歯についての対応方針

当院は、歯の寿命をできるだけ長く保つことを最優先しています。抜歯直後は、歯を抜いた部分の治癒を妨げないことを原則として大切に考え、適切な対応をさせていただいております。
基本的には、患者様のお口を最優先に考え、仮歯の装着はおすすめしておりません。
とはいえ、歯がないことで見た目に不安を感じる方や、やむを得ない状況により何らかの対応が必要となる場合も少なくはないでしょう。
当院ではライフイベントなどのご都合に合わせ、短期的な対応であることを前提に、仮歯をお作りするという方針で治療を行っております。ただ見た目の回復を図るだけではなく、将来の治療計画(インプラント・ブリッジ・矯正などを含む)との整合を取り、中長期的に見ても不利益が出ない方法をご提案いたします。
安全性や清掃性についても重視した仮歯を作製いたしますので、どうぞご安心ください。
よくある質問(FAQ)
- 仮歯はどのくらい持ちますか?
→仮歯はあくまでも短期間使用していただくもので、使用期間は装置や清掃状態により異なります。
- 仮歯をつけていても食事はできますか? →可能な方法もありますが、無理は禁物です。外していただいて食事をする前提で作製する装置もあります。
- 仮歯にすることによって、発音への影響はありますか?
→慣れるまでに数日かかることがあります。前歯に使用する場合は、個人差があるでしょう。
- 仮歯の費用はどのくらいですか?
→どのような方法で行うかによって異なるため、事前の見積りなどで明確にしておきましょう。
- 健康保険は適用になりますか?
→目的や方法により異なります。詳しくは歯科医院で確認してみてください。
- 直前になって仮歯にしたいと伝えても間に合いますか?
→できる範囲で対応できますが、選択肢は限定される可能性があります。
- 自分で仮歯を接着してもよいですか?
→ご自分でつけることはお控えください。もし仮歯が取れてしまった場合は、そのまま医院へお持ちください。
まとめ
今回は、当院で仮歯の対応を行うケースや、その理由・注意点などについてご説明しました。仮歯の大きなメリットは、見た目を回復させてくれるという点ですが、いつでも付けられるわけではありません。抜歯直後は、歯や歯ぐきの治癒を妨げないようにすることが最優先です。梅田キュア矯正歯科では、中長期の治療の成功を見据えながら、ライフイベント時には短期的に仮歯などの対応により審美性でもサポートしております。仮歯が必要と思われるイベントなどのご予定がございましたら、まずは日程とご希望をお聞かせください。一人ひとりの患者様にとって、最適な方法をご提案いたします。

