「しゃくれ」という言葉を聞いたことや実際に会話の中で使ったことがある方は多いと思いますが、「受け口」は聞いたことはありますか?
どちらも上顎より下顎の方が前方に突出しているので、「受け口=しゃくれ」と同じ意味で使われる事が多くありますが、似ているようで全く違い、治療方法も異なってきます。
「しゃくれ」が先行しすぎて、正しい意味を知っている方は少ないと思うので、今回はしゃくれと受け口の違いや、症状や程度によっての改善方法などについて詳しくまとめました。
目次
受け口とは?
受け口とは上記で述べた通り、上顎より下顎が前方に突出している状態のことを指し、専門用語では「下顎前突」と言われています。
しかし下顎が前突してるからと言って全てのタイプが一緒ではなく、受け口には2種類あり受け口としゃくれの根本的な違いが明らかになります。
1 歯槽性反対咬合
歯槽性反対咬合は骨格に問題なくは歯並びのみが原因の受け口です。
下の前歯が外側に傾斜していていたり、上の前歯が内側に傾斜して上下の歯の生える方向が反対になっている状態のことをいいます。
2 骨格性反対咬合
骨格性反対咬合は骨格が原因にあり、上顎より下顎が前に突き出ている受け口です。
上顎の成長不足や下顎が過剰に成長し、咬み合わせが反対になっている状態で、「しゃくれ」はこれに当てはまります。
骨格が原因で下顎が前突している状態を「しゃくれ」といい、歯並びは関係ないので反対咬合になっていないケースもあります。
受け口は正面から見ると顎がシャープで綺麗に見える場合もありますが、横から見ると下顎が前に出ていることが良くわかり、美しい横顔の条件とされる鼻先から下顎の先を結んだEラインが崩れてしまい、コンプレックスになりやすいです。審美性だけでなく受け口が引き起こすトラブルは多くあります。
受け口の症状
受け口は審美性が1番のデメリットかと思われますが、実は全身に影響してしまうほどの症状が出るリスクがあります。
機能障害
通常は上の歯が下の歯の外側に咬み込むのが正しい位置ですが、受け口の場合上の歯よりも下の歯が前に出ているので、咬み合わせ異常が生じます。
お食事の際は前歯で噛み切りにくく、うまく咀嚼できなかったりズレた顎で噛んでいるため顎関節に負担がかかり顎関節症になるリスクも高いです。
さらに咬み合わせが悪いと、全身のバランスが歪みやすく頭痛や肩こり、腰痛などの原因にも繋がります。
発音障害
上下の前歯が咬み合わさっていないので、空気が歯の隙間から漏れてしまい滑舌が悪くなってしまいます。
特に「サ行」や「タ行」、英語の「s」や「th」などの発音に影響が出やすく、スムーズに会話がしにくいでしょう。
虫歯や歯周疾患のリスク
受け口の場合、口が閉じにくく口呼吸の方が多いです。
常に口呼吸を行っていると、口腔内が乾燥し唾液の分泌が悪くなることで細菌が繁殖し虫歯や歯周病になりやすい環境を作ってしまいます。
審美性や機能面など生活に支障をきたし、全身に悪影響を及ぼす可能性があるので、健康な身体を維持するためにも、受け口の方だけでなく咬み合わせが悪い方は治療することをおすすめします。
受け口になる原因
受け口になる原因は大きく分けて2つあります。
1 遺伝
歯並びや骨格は遺伝することが多く、骨格性反対咬合は骨格が原因なので、遺伝する可能性が高いです。
上顎の成長が劣っているか、下顎が過剰に成長してしまう為、顎の成長期に適切な成長を促す治療をすると、最小限の負担で受け口が改善できるので、5歳頃から矯正治療を開始しても早くはなく、遅くても10歳までには治療を受けることが望ましいです。
2 悪習癖
日常生活で習慣的に行っている癖が無意識に受け口を促す行為である場合があります。
この悪習癖を改善しないと矯正治療を行っても後戻りの原因になりますので、矯正治療を行うよりも先に気付いて改善することが1番の治療になります。
舌癖
通常リラックス時の舌の先端は上顎の天井についてる事が正常ですが、下顎の前歯の裏側に舌を押し付けている「低位舌」になっていると、常に下の前歯を押していることになるので、ツバやお食事を飲み込む際にも低位舌だと、下顎の前歯を押しつけて嚥下するので毎回500gの力が加わるので前歯が前に傾斜したり下顎の成長に繋がります。
正常な発育は、舌が上顎を押し上けることによって成長を促すので、低位舌であれば正しい位置を維持し、改善を心掛けてみてください。
トレーニングも効果的かと思いますので、まずは気軽に始めてみましょう。
・舌を上顎に吸い付けるように力を入れて、ポンと音を鳴らす
・フーセンガムを良く噛んで上顎に押し付けたり、ガムを膨らます
指しゃぶり・爪噛み
指しゃぶりなどする子は多いと思いますが、大体は5歳頃までに自然にやめれています。
しかし5歳以降も日常的に続けると、骨格や歯並びに影響がでてくるので、タイミングを意識しながらやめさせる事が大切です。
安心感を得るために指やタオルなどお口に物を入れると言われており、叱るのではなく、やめないといけない理由を説明し、納得して自分からやめるようにサポートしましょう。
口呼吸
常に口呼吸の方はお口が開けっ放しの状態になり、口輪筋が低下してきます。
唇を閉じていると外側からの圧力と舌による内側からの圧力のバランスで歯列が正しく並びますが、口呼吸の場合、外側からの圧力がかからないので下顎の前歯が前に突出しやすくなります。
歯並び以外にも虫歯や歯周病、免疫力低下などのリスクが高まるので、鼻炎などで鼻呼吸できない場合を除き、鼻で呼吸するように意識をしましょう。
受け口を改善しないとどうなる?
受け口を改善せず放置すると、以下のようなデメリットが生じます。
受け口が顕著になる
顎骨の成長は上顎が10歳ごろには80%完成しており、下顎は思春期ごろが成長のピークで20歳には成長が完了します。
そのため、成長段階で上顎・下顎ともに正しい成長を促し、咬み合わせを改善しなければ受け口がより進行してしまいます。
思春期には見た目にコンプレックスを抱き、消極的になる場合もあります。
咀嚼機能が低下する
咬み合わせが悪くなることで、食べ物をしっかり咀嚼することは難しく、消化不良を引き起こしやすくなります。
良く噛まないと脳に刺激が行かず記憶力や集中力の低下、表情筋の衰えなど健康や美容にも直結します。
発音障害になる
受け口の度合いによって発音障害のレベルも異なりますが、サ行や英語の発音が難しくなり、会話に大きく支障が出てしまいます。
それにより人とのコミュニケーションをとることが苦痛になる方も多いです。
顎関節症
顎がズレていることで顎の関節や筋肉に必要以上に負担をかけてしまうことで顎関節症になりやすく、大きい口を開けれなくなり食事ができないほどに悪化することもあります。
痛みを伴う場合や、頭痛・肩こり・腰痛など全身のバランスが乱れ様々な症状が出る可能性があります。
受け口は自然に治ることが難しいので、気付いた時に歯科医師に相談し、治療が必要なら早期に治療した方が最小限で抑えれる可能性があるので、早めの改善が望ましいです。
受け口の矯正方法
受け口には程度が3段階に分かれていて、状態によって治療方法が異なります。
1 軽度
軽度は骨格には問題なく歯や歯列が上下反対になっているだけ状態です。
あまり目立たない場合も多く、治療方法も歯を抜かずに歯列を正しい位置に移動させる施術で治ることが多いです。
マウスピース矯正でも治療が可能なケースが多いので、難しく時間がかかるような治療ではありません。
2 中程度
中程度は骨格は問題なく、歯並びや咬み合わせが悪い反対咬合の状態です。
一般的には歯を抜いて治療することが多いですが、歯並びの度合いによってはマウスピース矯正で改善することもできます。
しかし歯並びが悪く歯の移動距離が多いと、ワイヤー矯正と併用になることがあります。
3 重度
重度は骨格のバランスが悪い状態です。
子供の成長段階での治療の場合、顎の成長を促す矯正装置で受け口を改善できますが、大人の場合、成長がとまっているので外科的手術が必要になる可能性があります。
手術は「セットバック」という施術で、下顎の左右前から4番目の歯を抜歯し、抜いてできたスペースを骨ごと後方に押し下げます。
そうすることで、下顎が上顎よりも後方に位置し受け口が改善できます。
顎先が突出している場合、顎先の骨を切除する施術も行ってくれる医療機関もあるので、希望する時は歯科医師に相談し、施術前のカウンセリングで納得をしてから外科的手術を行いましょう。
受け口は見た目だけでなく、身体のバランスも崩れるので日常生活に影響が出てきます。
健康な身体作りには咬み合わせがすごく重要であり、他でフォローできるものではありません。
なるべく早めに矯正治療を行い、受け口を改善して身体にかかる負担を最小限にしてほしいと思いますので、お気軽にご相談ください。