歯並びを整えたいけれど、治療中の装置が目立つのは避けたい━━。そう考える方にとって、通常目立ちにくい歯の裏側に装置を装着する「裏側矯正(舌側矯正)」は非常に魅力的な選択肢の一つです。 しかし同時に、「趣味で歌を続けている」「仕事上発音が悪いと業務に支障をきたす」という方から、「裏側矯正(舌側矯正)の影響で滑舌が悪くなると困る」「発音に影響が出たら不安」「舌が痛くて歌えなくならないか心配」といったご相談をいただくことも少なくありません。 実際、裏側矯正(舌側矯正)は舌が直接触れる位置に装置があるため、表側矯正にはない発音や滑舌に関する注意点があることは事実です。 そこで本記事では、裏側矯正(舌側矯正)が発音や歌、滑舌にどのような影響を与える可能性があるのか、そしてその対策や慣れるまでの期間について詳しく解説します。
目次
裏側矯正(舌側矯正)とは?特徴とメリット

裏側矯正(舌側矯正)は、その名の通り、歯の裏側(舌側)にブラケットと呼ばれる装置とワイヤーを取り付けて歯を動かす治療法です。表側矯正と違い、装置が外から見えにくいため、特に接客業や営業職、人前に立つお仕事など、職業柄見た目の印象を特に重視される方に選ばれています。 この「目立ちにくい」といったメリットの他、「スポーツや外傷時に口唇を傷つけにくい」、「唾液の流れが良い場所に装置があるため、むし歯のリスクがやや低い」ことも裏側矯正(舌側矯正)の特徴です。
一方で、裏側矯正(舌側矯正)には特有のデメリットも存在します。それは、装置が常に「舌」触れる位置にあるということです。 人間の舌は非常に敏感な器官であり、髪の毛が1本入っただけでも強い違和感を覚えるほど。その舌が動くスペースに装置の厚みが加わるため、特に治療初期は以下のような影響が出る可能性があります。
- 発音・滑舌への影響
- 舌が装置に擦れることによる痛み(口内炎・舌炎)
- 食事の際の食べにくさ
- 慣れるまでの違和感
一時的ではあるものの、こうした点が裏側矯正(舌側矯正)の懸念点と言えるでしょう。
発音や歌への影響は?
結論から言うと、装置を装着した直後(特に最初の1〜2週間)は、発音や滑舌に一時的な影響が出る可能性が高いと言えます。特に違和感が出やすいとされるのが、「サ行」「タ行」「ラ行」です。 これらの音は、発音する際に「舌先(舌尖)」を上の前歯の裏側や、その付近の歯茎(口蓋)に近づけたり、弾いたりして音を作ります。
裏側矯正(舌側矯正)では、まさにその場所に装置が設置されるため、舌の動きが物理的に制限されたり、意図しない場所に舌が当たったりすることで発音が不明瞭になったりすることもあるのです。 しかし、こうした症状はずっと続くわけではありません。人間の体には高い適応能力があり、舌が口腔内の新しい環境(装置の厚みや形状)に慣れ、発音の方法を徐々に自然と調整していくため、多くの場合は時間経過とともに改善していきます。
歌を歌う場合、日常会話よりもさらに繊細な舌のコントロールが求められるようになり、下記のような影響がでる場合も。
- 歌詞の発音が不明瞭になる
- 舌の動きが制限されて、高音が出しにくい
- 無意識に力が入って舌が疲れやすくなる
こういった影響は大きな個人差があるため、一概に「影響が必ず出る」「数週間で慣れる」と明確な期間は断言できませんが、装着後徐々に慣れて発音が自然になるケースがほとんどです。
歌う人が気をつけたいポイント
舌が痛いときは「矯正用ワックス」を使う

装置が舌に当たって痛いときは、歯科医院から渡される「矯正用ワックス」を使いましょう。装置の角やワイヤーの先端をカバーすることで、舌への刺激をやわらげることができます。特に歌う前や長時間話す前など、舌がよく動く場面では積極的に使うと効果的です。
発音練習で慣れる
違和感が落ち着いてきたら、以下のようなトレーニングを行うと舌の動きをスムーズに戻しやすくなります。
- 「サ行」「タ行」「ラ行」の音をゆっくり練習
- 鏡を見ながら母音「あ・い・う・え・お」を丁寧に発音
- リップロール、ハミング、タングトリルなどの発声練習
装置に舌が当たりやすい「タ」や「リ」などの音は、特に丁寧に練習するのがおすすめです。ただ、装置をつけてすぐの数日間は、痛みや違和感が強く出る時期です。無理に練習せず、日常会話で少しずつ慣らすようにしましょう。
マウスピース型矯正との併用についても理解しておく
歯並びの状態によっては、裏側矯正(舌側矯正)とマウスピース型矯正を組み合わせた治療プランが適応になるケースもあります。
例えば、裏側装置の違和感にどうしても慣れない方や、マウスピース単体では治療が難しいケースの方は、治療初期は目立ちにくい裏側矯正(舌側矯正)である程度並べる→噛み合わせや歯の細かな調整はマウスピース型矯正で治療する、といったアプローチも歯並びや予算によっては可能になります。
どういった治療法がご自身のライフスタイルや歯並びの状態に適しているかは、精密検査の結果と、何を優先したいかによって異なります。一時的にでも発音に支障をきたすのが困る方、仕事などで歌を歌う方などは、カウンセリングの場でこういった状況を具体的に伝えることが重要です。
装置に慣れるまでの過ごし方と対策

装置の装着直後は、違和感や痛みが強く出ます。この期間は、無理に歌唱練習や発声練習を行うのは避け、まずは日常会話で舌を新しい環境に慣らすことを優先してください。 痛みや違和感が落ち着き、ある程度快適に過ごせるようになってきたタイミングから、軽い発声練習を再開してみましょう。
軽めの発声練習からスタート
- リップロール:「プルルル」と唇を震わせる練習
- タングトリル:「トゥルルル」と巻き舌で舌を動かす練習
- ハミング:口を閉じて「んー」と鼻に響かせる練習
- 母音練習:「あ・い・う・え・お」をはっきり発音しながら舌の位置を確認
- 早口言葉:「さしすせそ」「たちつてと」など、苦手な音を意識して練習
重要なのは「力まないこと」と「短時間から始めること」です。痛みを感じたら無理せず休み、必要に応じてワックスを使ってください。
【Q&A】裏側矯正(舌側矯正)と発音・歌に関するご質問

Q:裏側矯正中でも歌えますか?
A:装置をつけた直後は違和感がありますが、多くの方が2〜3週間で慣れています。歌うことができなくなるわけではありませんので、ご安心ください。※個人差が大きいため、カウンセリング時にご不安な点をご相談ください。
Q:舌が痛いときはどうすればいいですか?
A:矯正用ワックスを装置に覆うように貼り、カバーしてください。改善しない場合は、装置の角を丸める、歯科用のレジンでカバーするなど調整が可能な場合もありますので、治療先の歯科医院へご相談ください。
Q:発音練習は毎日したほうがいいですか?
A:痛みや違和感が強い時期に無理に練習すると、口内炎(舌炎)が悪化することもあります。無理のない範囲で短時間ずつ始めるのがおすすめです。治療開始時は無理をせず、違和感が落ち着いてから少しずつ練習を取り入れていきましょう。
Q:声優やアナウンサーでも裏側矯正できますか?
A:実際に裏側矯正(舌側矯正)をされている声のプロの方もいらっしゃいます。ただし、より丁寧な発音トレーニングが必要になる場合もあるので、カウンセリング時にはご自身の職業特性を歯科医師に詳細に伝えて相談しましょう。
まとめ【慣れれば歌う方も安心して裏側矯正を選べます】

裏側矯正(舌側矯正)は舌に装置が当たる位置にあるため、発音や歌唱に一時的な違和感が出ることがありますが、見た目を気にせず矯正できるメリットの大きい治療法です。
一時的な発音への影響は否定できませんが、ほとんどの方は時間の経過とともに順応し、発音や滑舌も自然な状態に戻っていきます。さらに、可能な限り発声や歌のトレーニングを取り入れることで、スムーズに慣れていくことも可能です。
梅⽥キュア矯正⻭科では見た目だけでなく、発音やライフスタイルへの影響も踏まえ、声を使う仕事をされている方にも適した治療計画をご提案しています。 裏側矯正が自分に向いているか不安な方、発音への影響が気になる方は、どうぞお気軽に当院のカウンセリングでご相談ください。専門の矯正医師が丁寧にご相談をお受けします。

