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抜歯とは
抜歯とは歯を抜くことです。主に重度の虫歯や歯周病、親知らずの問題や歯の位置が悪い場合、矯正治療などに行われます。歯列矯正を始める際、必ず抜歯が必要なのか気になりますよね。結論、歯列矯正を始める方全員が抜歯が必要という訳ではございません。歯列矯正を始めるにあたり症例によっては”便宜抜歯”や”智歯抜歯”が必要なケースがございます。
①智歯(親知らず)抜歯
智歯抜歯とは、親知らずを抜くことです。親知らずは業界用語で智歯と言います。智歯は8番目の歯で、正式には智歯や第3大臼歯と呼ばれています。10代後半から20代前半にかけて生えてきます。智歯が正常に生える場合もありますが、スペース不足や不正な位置に生えるため抜歯が必要になることが多いです。
智歯抜歯が必要な理由
- 智歯が他の歯を押して歯並びを悪くする可能性がある場合。
- 智歯は奥に位置しているため、歯磨きが難しく虫歯や歯周病の原因となる場合。
- 智歯が部分的にしか生えず、炎症や感染を引き起こす場合。歯列矯正では上記の他に、矯正治療で想定、計画される歯の動きが智歯があることによって妨げられる場合は智歯抜歯が必要になります。
智歯抜歯のリスクはあるの?
下顎の智歯抜歯は、下顎神経(下歯槽神経)が近いことが多く、抜歯時に損傷を受けるリスクがあります。一歩間違えれば、まれに感覚異常(知覚麻痺)、痛み(神経痛)、味覚異常が起こってしまう可能性があります。リスクを防ぐためには下記が効果的です。
事前に精密検査を行う
パノラマX線撮影
智歯と下歯槽神経の位置関係を確認します。これは基本的な検査で、神経との距離や抜歯の難易度を評価します。
CTスキャン(3D画像)
より詳細な画像を得るためにCTスキャンを行い、親知らずの埋まり方や歯根の形、血管や神経との位置関係を立体的に把握します。これにより、神経損傷のリスクをより正確に評価できます。
②便宜抜歯
便宜抜歯とは特定の目的を達成するために行われる計画的な抜歯のことを指します。歯列矯正などの治療計画を円滑に進めるために、健康な歯を意図的に抜きます。矯正治療では、歯並びを整えるスペースを確保したり、かみ合わせを改善するために行われます。虫歯や歯周病などの病的な理由で抜歯されるわけではなく、他の治療や状況を考慮して抜歯が最適と判断された場合に行われます。
健康な歯を抜いてもリスクはないの?
便宜抜歯は基本的に抜歯してもリスクを伴わず問題のない歯を抜くことが殆どです。便宜抜歯後は歯列矯正で歯列を整えていくため、抜歯をしたからと言って日常生活に支障はございません。抜歯をしない状態(歯列矯正前or抜歯なしでの歯列矯正)の歯並びより、抜歯をして歯列矯正で整えた歯並びのほうがメリットが大きくある場合のみ行われます。歯にとって何がベストかをしっかり見極めたうえでの判断が必要です。
便宜抜歯が必要になる可能性が高い症例は?
歯列矯正を希望される患者さんは、骨の大きさと歯の並び方に何らかの問題を抱えています。よく耳にするのは、乱杭歯と呼ばれる叢生や出っ歯、八重歯といった歯列不正です。これらの多くは顎の骨の大きさと歯の本数が釣り合わず、歯列からはみ出すことで生じています。歯の本数が多いだけで使われていない歯は機能せず役にたちません。その為便宜抜歯をすることで審美性は高まります。下記の症例は便宜抜歯が必要な可能性が高くあります。
①ガタガタ、凸凹歯列の場合は、歯を並べるためのスペースが足りていない
②歯の傾き、位置の改善
③左右の歯の数や位置に差がある場合、非対称な歯並びの修正
抜歯をせず矯正はできるの?
顎のスペースや歯並びの状態によって非抜歯矯正が適しているか判断されます。軽度の歯列不正は非抜歯で矯正することが可能なケースがあります。ただ、抜歯が必要なケースの歯列を非抜歯で矯正すると以下のリスクが伴います。
①スペース不足で歯並びの不完全な仕上がり
②歯を後ろに引き込むスペースがないので口元が突出
③噛み合わせの不具合が起こることで全身に悪影響
④後戻りのリスク増加
その為、正確な判断とご自身の歯の状態をきちんと調べ、結果を知ることが大切です。その為には精密検査を行う必要があります。精密検査ではどのようなことを知ることが出来るのか、以下をご覧ください。
精密検査
・問題を詳細に把握することが可能
レントゲンやCTスキャン、歯型などの資料取りを行います。歯や顎の状態、噛み合わせ、目視では確認できない骨や歯根の状態まで確認することで、問題の本質を明確にします。
・適切な治療計画の立案
精密検査の結果に基づき、どのような治療法が最適かを決定します。例えば、抜歯が必要か、非抜歯対応可能か、どのような矯正装置が最適かなどの判断が可能になります。また、治療期間や予測される結果も、検査結果を元に具体的に説明されます。
・歯の移動に伴うリスクの予測
検査によって、歯を動かす際に問題が発生するリスクを把握できます。事前にリスクの情報を得ることで、リスクを最小限に抑えた治療が可能になります。
・顔貌や横顔のバランスの確認
精密検査では、歯や顎だけでなく、顔のバランス(フェイシャルバランス)や歯列矯正による横顔の変化についてもお話が可能です。歯列矯正を始める前に理想の口元になれるかどうか、しっかりとドクターと話し合うことが出来ます。
抜歯後に注意すること
①抜歯後の食事について
抜歯後のお食事は上記に述べたように2~3時間麻酔がきれるのを待ってからお食事を取るようにしましょう。抜歯後2,3時間は、血餅(血のかたまり)がしっかりと形成されるのを待つためのものです。血餅がしっかり形成されないと、ドライソケットや感染のリスクが高まります。また抜歯後の食事は傷口の回復を促し、感染を防ぐために慎重に選ぶ必要があります。辛い、熱い、固い食べ物は、傷口に刺激を与える可能性があります。また、アルコールや炭酸飲料も避けましょう。
②抜歯後の口腔ケア
当日は抜歯後24時間は、血餅がはがれないように歯を磨いたり、うがいをしたりしないでください。翌日からは、柔らかい歯ブラシを使い、傷口を避けながら優しく歯を磨いてください。うがいをするときは、塩水(コップ1杯の水に対して小さじ1杯の塩を混ぜたもの)を使うとよいでしょう。
~塩水の効果~
・塩水には自然な抗菌作用があります。口腔内の細菌の増殖を抑えることで、感染のリスクを減らし、傷口が清潔に保たれます。
・塩水は炎症を抑える効果もあります。傷口の腫れや不快感を和らげることができます。
・塩水でのうがいは、傷口周辺に残った食べ物のかすや細菌をやさしく洗い流すのに役立ちます。抜歯後は通常のうがいが強すぎるため、塩水での優しいうがいをしましょう。
・塩水でのうがいは、血餅を傷つけずに口腔内を清潔に保つことができます。血餅がはがれると、治癒が遅れたり、ドライソケットを引き起こすリスクがあります。
③激しい運動、多量の飲酒、喫煙は控えましょう
最初の24~48時間は、激しい運動や活動は避け、できるだけ安静に過ごしましょう。喫煙は治癒を遅らせ、感染のリスクを高めるため、数日から1週間程度は禁煙してください。タバコを吸うと、ニコチンの血管収縮作用により、血液の供給を抑制するので抜歯窩の治りが遅くなったり薬の作用も弱くなります。また喫煙により抜歯した部分の血餅がはがれることがあり、これがドライソケットと呼ばれる状態を引き起こすことがあります。
8020運動と便宜抜歯の関係・繋がり
8020運動とは…
「80歳になっても20本以上の自分の歯を保とう」という目標を掲げ、日本歯科医師会と厚生労働省が1989年にスタートさせた運動です。
80は現在の平均寿命(平成30年簡易生命表)男性81.3歳・女性87.3歳を表しています。20は「自分の歯で食べられる」ために必要な歯の数を意味しています。今までに行われた歯の本数と食品を噛む(咀嚼)能力に関する調査によれば、だいたい20本以上の歯が残っていれば、硬い食品でもほぼ満足に噛めることが科学的に明らかになっています。
8020運動を達成するためには、若い頃からの適切な歯科ケアが重要です。そのためには定期的な歯科検診、適切なブラッシング、食生活の改善などが大切です。
矯正は矯正治療の一環として健康な歯を長期的に保存する目的があります。矯正治療によって歯並びやかみ合わせが改善されることで、歯の清掃がしやすくなり、虫歯や歯周病のリスクが減ります。これにより、結果的に高齢になっても健康な歯を保つことが容易になります。つまり、便宜抜歯を含む適切な矯正治療は、8020運動の理念に寄与することになります。そのため健康な歯を抜くことは決して悪いことではないのです。