「歯並びが悪い」ということは「噛み合わせが悪い」という事に繋がりますが、意外と自分自身で「嚙み合わせが悪い」ことに気付いている方は少ないように思います。上下の顎や歯の位置のズレや、機能面に支障を生じる噛み合わせを「不正咬合」と言い、様々な種類があります。不正咬合の一種である「交叉咬合」は軽度の症例だと案外気付きにくいですが、噛み合わせがズレているので、放置していると症状が悪化して痛みを伴ったり、顔が歪んでしまいます。大人になってから気付いたとしても治療することはできますが、最悪の場合外科手術が必要になるでしょう。そうならないために、早めに噛み合わせを治療することが重要です。まずは交叉咬合について、そして治療方法を説明してきます。
目次
交叉咬合とは?
交叉咬合とは名前の通り、噛み合わせた時に上下の歯が全てではなく、一部分だけ反対にズレている状態のこと言います。正常な噛み合わせは上顎が下顎の外側にありますが、1歯だけでも下顎が上顎よりも外側にズレていると噛み合わせが交差しているので、「クロスバイト」とも呼ばれています。上下前歯部の真ん中のラインが揃わないので、口腔内だけでなく見た目も左右非対象なお顔になってしまいます。
本来上顎の内側に下顎があることで前歯で噛み切ったり、奥歯ですり潰したりと咀嚼機能が十分に働き、正常に顎の発育が行われます。しかし1歯でも噛み合わせが反対になっていると、そこを起点として成長と共に、下顎がどんどん横にズレてしまうのです。顎の歪みは全身のバランスに影響し、歯周病や顎関節症のリスクや、偏頭痛や肩こり、腰痛などの不調を引き起こす原因になります。
さらに顎の歪みが目立ってくるとコンプレックスにもなり、外科手術でしか治療ができなくなるので、なるべく早めに治療することが望ましいです。
交叉咬合の原因
交叉咬合になる原因には、以下のように先天的と後天的なものがあります。
1)遺伝的な要因
骨格は遺伝しやすいので、両親や親戚が交叉咬合や顎の成長バランスに異常がある場合は受け継ぐ可能性があります。歯の形や大きさも遺伝する可能性が高く、歯並びも約3割程は遺伝するので、身内に交叉咬合の方がいれば要注意です。
2)歯槽的な要因
乳歯から永久歯に生え変わると歯の大きさが1.5倍にもなるので、顎が十分成長していないと歯が生えるスペースがないため、生える位置が悪くなってしまいます。また、生え変わりが上手くできていないことも交叉咬合の原因に繋がります。
3)環境的な要因
顎がズレる行動を日常生活で習慣的に行っている可能性があります。口呼吸や指しゃぶり・おしゃぶりの長期使用、頬杖や同じ向きを下にして寝る習慣などがあれば、噛み合わせのズレが生じます。本人は無自覚で何気ない癖だと思いますが、このように顎や歯に外力が加わることが長期間続くと少しずつ歪んでいきます。
交叉咬合の治療方法
交叉咬合の治療には、歯並びが問題の場合は歯列矯正で改善することができます。上下の顎のバランスは正常で歯並びによって一部分の噛み合わせが反対になっている症例は、ワイヤー矯正やマウスピース型矯正で上下顎の歯並びを揃えると噛み合わせも揃います。しかし歯が綺麗にならぶ隙間がない場合は抜歯や、歯の側面を少し削るディスキング(IPR)という方法でスペースを確保しなければいけないです。
歯列矯正の種類別でメリット・デメリットを紹介していきます。
1)ワイヤー矯正
ワイヤー矯正には歯の表面にブラケットとワイヤーを固定する表側矯正と、歯の裏側に矯正装置を装着する裏側矯正(舌側矯正)の2種類があります。装置には一番安価な金属のものがありますが、やはり目立つので最近では透明のものや白色のワイヤーなど目立ちにくいものも選択できるようになっています。
メリット
・適応症例が多い
・固定式なので取り外す必要がない
・マウスピース型矯正装置と比較すると歯の移動速度が速い
・調節など細かい動きも得意とする
デメリット
・表側矯正は装置が目立つ
・お食事は歯に詰まりやすく、歯磨きがし難しい
・虫歯になりやすい
・口腔内の粘膜が傷付きやすい
【表側ワイヤー矯正について詳しくはこちら★】【ハーフリンガル矯正についてはこちら★】【裏側矯正についてはこちら★】
2)マウスピース型矯正
マウスピース型矯正は透明のマウスピースを1日20時間以上装着し、約2週間毎に新しいマウスピースへとステップアップして歯並びを整えていく方法です。予め複数枚のマウスピースを患者さんに渡す医院が多く、通院回数は少なくなりますが、その分自己管理が必要になります。しかし装置が目立ちにくく、周囲にバレにくいことが人気の要因です。
メリット
・マウスピースが透明で目立ちにくい
・取り外しができるので食事や歯磨きに支障がない
・衛生的である
・痛みを感じにくい
・通院日が2~3ヵ月に1回の時もある
デメリット
・全ての症例に適用されない
・1日20時間以上も装着する必要がある
・自己管理ができないと計画通りに歯が動かない
・外食時も取り外しをしなければならない
・装着する前はできるだけ綺麗にしないと菌の繁殖に繋がる
3)外科矯正
交叉咬合の原因が歯並びではなく、顎のズレ・歪みの場合は外科矯正の適用が必要になるでしょう。外科矯正は骨格性の問題を改善するために外科手術を行い、その後歯並びを改善するために歯列矯正も行います。金銭面の負担が多いと思われますが、「顎変形症」と診断されると保険診療が適用されるので、外科矯正の負担は軽減できます。しかし保険適応で矯正治療が行える医療機関は限られています。厚生労働大臣かた顎口腔機能診断施設・指定自立支援医療機関として指定・認定を受けているところだけなので注意して下さい。顎の成長途中で手術を行うと、正常に成長せず、顔が歪んでくる可能性があるので、年齢に応じた治療を行いましょう。
メリット
・骨格問題が解決できる
・コンプレックスが解消される
・しっかり噛めるようになり、咀嚼能力が上がる
・よく噛むことで全身の健康に繋がる
・発音が明瞭になる
デメリット
・10日程入院期間が必要
・術後は痛みや腫れ・痺れなどのダウンタイムがある
・トータルの治療期間が長くなる
・外科手術で後遺症が出ることも考えられる
乳歯列から交叉咬合であれば、永久歯に生え変わっても交叉咬合であることが多いです。そのため気付いた時点で矯正歯科へ相談に行くと、永久歯列への予防や最小限の治療で改善する可能性があります。
【当法人の外科矯正について詳しくはこちら★】※当法人の一部クリニックが対応可能です。詳しくはお近くの医院にお問い合わせください。
まとめ
交叉咬合についてまとめると、1歯でも上下の噛み合わせがズレていると「交叉咬合」と言う不正咬合の一種にあたります。噛み合わせがズレる原因は骨格や歯並びの遺伝や、口呼吸・指しゃぶり・頬杖・うつ伏せ寝などの癖があると交叉咬合のリスクが高くなります。
大人になってからの交叉咬合の治療は、①歯列矯正②外科手術の方法があります。しかし原因である上記の癖を改善していないと、交叉咬合を治療しても元に戻ってしまうことも十分に考えられるので、まずは癖に気付いて改善することから始めましょう。このような歯並びや噛み合わせに悪影響を与える癖を「口腔悪習癖」と言いますが、本人は無意識にしていることが多いので、周りの方からの注意が気付くきっかけになることもあります。特にお子様の成長には噛み合わせが非常に重要になるので、保護者の方が幼少期から悪習癖に気付けていると、交叉咬合に限らず不正咬合の予防に繋がることもあります。
交叉咬合を放置すると噛み合わせの歪みがひどくなってくるので、見た目や咀嚼機能・身体のバランスが崩れてきます。大人の交叉咬合こそ治療の必要があるので、噛み合わせが気になる方はお気軽にお問合せ下さい。