歯や歯を支える組織に大きな負担がかかったとき、歯の根っこではどのようなことが起こっているのでしょうか。歯の根っこである歯根が吸収されてしまう「歯根吸収」について、ここでは解説していきます。歯根吸収の起こる原因や対処法などもあわせてみていきましょう。
目次
歯根吸収とは?
歯根吸収とは、文字通り「歯の根っこが吸収されてしまう」ことを指します。吸収されるというのは、歯の根っこがぎゅっと縮んで短くなってしまったり、溶けたように消えて無くなってしまうことです。歯の根っこは歯を支える骨の中に埋まっていますが、長さが長いほどグラグラしにくい丈夫な歯といえます。
なぜ歯根吸収が起こるの?
歯根吸収の原因はさまざま考えられますが、主に考えられるものをいくつかご紹介します。乳歯から永久歯へと生え変わる場合乳歯が永久歯へと生え変わるとき、抜けた乳歯をよくみると歯の根っこがほとんど吸収された状態になっています。乳歯の歯根はもともと短いわけではなく、永久歯に生え変わるために吸収され抜けやすい状態へと変化しているのです。これは生理的な歯根吸収として自然に起こるもので、乳歯から永久歯に生え変わるために必要な現象といえます。ただし、歯列不正の影響などにより、後から生えてくる永久歯によって先に生えていた永久歯の歯根が吸収されてしまうことがあり、その場合は注意が必要です。
外傷によって起こる吸収
事故や怪我などをして歯を強くぶつけた場合、歯根吸収がおこる可能性があります。よくみられるのは、転倒などで上の前歯を強くぶつけたことによる歯根吸収です。また、生えてから日が浅い歯をぶつけると歯根吸収が起こりやすいといわれています。はえたばかりの歯は根っこが未熟であるため、さまざまな影響を受けやすい時期なのです。
歯髄の問題によって起こる吸収
歯の神経である歯髄が炎症を起こすことによって、歯根吸収が起こることがあります。歯髄の治療の予後がよくない場合などは、歯の内側の方から歯根が吸収されてしまいます。神経の処置をしたことがある歯は、きちんと予後を確認しておくと安心です。
歯列矯正によって起こる場合
歯列矯正では、ワイヤーやマウスピースによって力を加えることにより歯を移動させていきます。この継続して力を加える動作によって、歯根吸収は起こりやすいと考えられています。正しい診断のもと、適切な圧力をかけ治療を行うことができる専門医の治療を受けることをおすすめします。
歯根吸収が起こるとどうなるの?
歯根吸収が起こると、なにか問題はあるのでしょうか?歯根とは、歯の土台となる部分です。歯を支える骨の中に、長く埋まっていればいるほどしっかりします。歯根吸収によって根っこの部分が短くなるということは、それだけ不安定になりやすい、といえます。グラグラしてきたり、最悪の場合抜け落ちてしまうことも視野にいれる必要があります。
歯根吸収への対処法は?
一度吸収されてしまった歯根を元の長さに戻すということは、現在の医療技術では実現できていません。ですから、歯根吸収が起こった場合の対処法としては、経過観察ということになります。矯正治療によって発生する歯根吸収に関しては、移動させている間のみ起こるとされています。軽度の歯根吸収であれば治療は継続されますが、重度の場合は中断する場合もあります。歯根の長さはレントゲンなどで確認が可能ですので、心配であれば歯科医院で相談してみましょう。
歯根吸収が起こりやすい場所とは
歯根吸収が起こりやすい場所は、ある程度特定されています。まず、上の前歯がもっとも歯根吸収が起きやすいとされ、次に下の前歯、続いて下の奥から2番目の歯(6歳臼歯)といわれています。奥歯は歯根が複数に枝分かれして根を張っていることもあり、横から力を加えてもグラグラしにくい特徴があります。前歯は歯根吸収のリスクとしては高いですが、もともとの歯根が長い方も多いので歯根吸収の影響を感じにくいといえるでしょう。
歯根吸収のリスクが高い歯とは
歯根吸収を引き起こすリスクが高いのはどのような歯なのでしょうか?歯根吸収のリスクが高いといわれる歯をいくつかご紹介しましょう。
歯根がそもそも短めの歯
歯根の長さは人それぞれ違いますが、遺伝などによって生まれつき短めの方もいらっしゃいます。そのような場合、もともと歯根が長い歯に比べると歯根吸収のリスクは高まります。
歯根のかたちが特殊な歯
例えば歯根の先端がとても細くなっている・少し曲がっているなど、少し特殊なかたちをしていることがあります。そういった特殊なかたちの場合、歯根吸収は起こりやすくなると考えられています。
神経をとる処置をした経験がある歯
歯の神経を取っている場合、治療の予後が思わしくなかったりすると歯根吸収が起こります。そもそも神経をとっている歯は栄養が送らず弱りやすいという特徴もあるため、しっかりと経
過をみておくことをおすすめします。
過去に外傷を受けている歯
過去に外傷を受けている場合、注意しておかないと知らないうちに歯根吸収が起こる可能性があります。外傷を受けた歯の神経は知らない間に死んでしまうことがあり、死にかけている神経の周りで炎症が起こると歯根吸収がおこるとされています。
歯根吸収と矯正治療の関係
歯根吸収と矯正治療には深い関係があり、治療の手順を誤ると最悪の場合歯を残すことが難しくなるケースもあります。では、どのような場合に矯正治療で歯根吸収のリスクが高まるのでしょうか?いくつか代表的なケースをご紹介します。
歯に強い負荷をかけすぎている
矯正治療を行うとき、歯を移動させるためにはどうしても負荷をかける必要があります。早く移動させようと強い負荷をかけたり、力加減を誤ったりすると歯根吸収のリスクは高くなります。歯根吸収を引き起こすリスクを下げるためには、できるかぎり緩やかに無理なく歯を移動させることが大切です。
長期的な治療となっている
治療に長い期間が必要な場合、歯に負荷がかかる期間がそれだけ多くなるため、歯根吸収のリスクも高くなりやすいです。矯正治療で歯を動かす期間は、平均すると2〜3年と言われています。
もっと長いように感じる方も多いかと思いますが、そのイメージは保定期間の長さからくるものだと考えられます。もちろん、歯並びの状態などによっては期間が前後することは十分に考えられますので、歯科医師としっかりと相談し、納得して治療を受けるようにしましょう。
ジグリング(揺さぶり)を行っている
矯正治療で歯を動かすためには、ジグリングといって歯を揺さぶるようにしながら移動させる方法をとることがほとんどです。ジグリングでは、歯根の先端に負担がかかる動きをするため歯根吸収を引き起こす大きな原因のひとつです。歯を動かすためには必要な動きなので、負荷がかかりすぎないようしっかりとした知識と技術を持った歯科医師に治療してもらうことが大切です。
まとめ
歯根吸収について、原因や仕組みなど詳しく解説していきました。歯根吸収を引き起こす主な原因は、次の通りです。
・乳歯から永久歯へと生え変わる場合
・外傷によって起こる吸収
・歯髄の問題によって起こる吸収
・歯列矯正によって起こる場合
歯根吸収が起こると、歯がグラグラしやすくなったりします。対処法としては、経過観察となることがほとんどです。
歯列矯正を行うことで歯根吸収は起こりやすくなりますが、たいていの場合は経過観察でとくに問題なく治療を終えることができます。心配であれば歯科医師に伝えてチェックしてもらいましょう。矯正治療にはメリットもあれば、デメリットもあります。信頼できる歯科医院でしっかりと相談し、安心して治療をすすめられる環境を整えましょう。