目次
妊娠さんの歯科矯正について
ご妊娠されていても歯科矯正は可能です。ただ、ご妊娠されている状態で歯科矯正を始める場合は歯科矯正開始時期をしっかり見極める必要がございます。
歯科矯正中のご妊娠であれば、特に体調面で問題がなければ歯科矯正はそのまま続けることができます。妊婦さんに負担が大きい治療やリスクを伴う治療などがあれば、その都度状態を確認しながら治療可能か判断していきます。
妊娠時期別の矯正治療の対応
妊娠初期(1~3ヶ月)
妊娠初期はストレスがかかりやすかったり、胎児の主要な臓器が形成される重要な時期なためレントゲン撮影は避けるべきです。主に矯正開始時に歯や骨の状態を確認し治療計画を練る際にレントゲン撮影が必要です。もし妊娠初期にレントゲンが必要な場合は鉛が入った防護服を着て胎児への放射線の影響を最小限に抑えますが、妊娠初期時は避けていただいた方が吉でしょう。
また妊娠初期はつわりが起きやすいため歯磨きがしにくくなります。
歯科矯正の調整時は、沢山の歯科器具を口腔内で使用します。つわりがある場合は、調整時期を遅らせることは可能です。ただ調整時期を遅らせることにより、矯正期間が少し伸びてしまう可能性があり、矯正装置が外れてしまっていたり装置に不具合があるまま放置していると後戻りの原因にもなってしまいます。
妊娠中期(安定期:4~6ヶ月)
妊娠中期は、妊娠が安定し、つわりなど、体調が軽減される時期です。この時期に定期健診にも行き口腔内を綺麗に保ちましょう。
妊娠後期(7~9カ月)
妊娠後期は母体の体が大きくなり、長時間の治療が難しくなります。通常の調整時は、だいたい30~40分程が平均で、初めて装置を装着する場合は平均60~90分程お時間いただきます。仰向けになると仰臥位低血圧症候群による死産のリスクが上がるため、処置中に吐き気や冷や汗、めまいや頻脈などの症状を感じたら、すぐに術者に伝えましょう。体の左を下にして動脈の圧迫を軽減した体制をすると血流改善が期待できます。また、出産に向けて体調が変化するため、この時期に新たな治療を始めることは避けましょう。
妊娠中は歯肉炎になりやすい?
妊娠性歯肉炎について
妊娠中は妊娠性歯肉炎が起きやすいです。特に妊娠2~8ヶ月の間に発生しやすくなります。妊娠中のエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンバランスの変化によって引き起こされる歯肉炎です。また妊娠すると、お口の唾液の性状が変わり、ネバネバした唾液になるため、虫歯菌や歯周病菌が繁殖しやすくなります。
妊娠性歯肉炎の対策方法とは?
妊娠性歯肉炎にならないようにするためには適切なブラッシングが必要です。歯茎は柔らかい歯ブラシを使用し、歯と歯茎の境目に45度にブラシを挿入し力を入れすぎないように優しくブラッシングしましょう。
妊娠性歯肉炎を放置しておくと、症状が悪化し、重度の歯周病に進行する可能性があります。また、重度の歯周病は早産や低出生体重児のリスクを高める可能性があります。そのため妊娠中の歯磨きは無理しない程度に丁寧に行いましょう。
妊娠中の歯磨きのコツ
妊娠初期はつわりが起きやすく、歯ブラシをお口の中にいれるだけでも体調が悪くなりやすいです。しかし歯磨きをしないと歯周病のリスクが高くなります。そのため夜寝る前の歯磨きだけは気をつけてみたり、体調が安定したときに歯磨きをしてみるや、香りや味が強すぎない歯磨き粉を選んだり、お水や洗口液を使用してお口をゆすぎましょう。そうするだけでも効果はあります。お口に含んだら20~30秒ブクブクうがいをしましょう。また小さめの歯ブラシやヘッドが小さいタイプ、タフトブラシを使用すると口の中に入れた時の異物感、吐き気が軽減できることがあります。
妊娠中の麻酔は可能?
歯科矯正で麻酔を使用するときは基本的にTAD埋入時、装置を装着する際に必要に応じて歯肉を少し切るとき(装置を付けやすくするために必要)です。
局所麻酔
局所麻酔薬は通常、妊娠中でも安全に使用できます。リドカインは、妊婦に最も一般的に使用される局所麻酔薬で、胎盤を通過しますが、適切な量で使用すれば胎児に悪影響を及ぼすリスクは非常に低いです。
麻酔薬はリドカインにエピネフリン(血管収縮剤)が添加されたものが一般的ですが、エピネフリンは局所での出血を抑え、麻酔効果を延長しますが、高用量や誤って血管内に注入された場合、母体や胎児に影響を与える可能性があります。
妊娠中の麻酔使用のタイミング
妊娠初期(1〜3ヶ月)は胎児の器官形成が行われる時期なため、あまり使用しないようにします。妊娠中期(4〜6ヶ月)は、麻酔を含む歯科治療を行うのに最も安全な時期とされています。妊娠後期(7〜9ヶ月)は母体の体調が不安定になることがあるため、治療のタイミングを慎重に選ぶ必要があります。
妊娠中でもレントゲン撮影できるの?
歯科レントゲンは一般的に低線量の放射線を使用します。そのため胎児への直接的なリスクは低いとされています。しかし特に妊娠初期は胎児の発育が盛んな時期なのでできればレントゲン撮影は避けるべきです。処置に不可欠な場合を除き、歯科レントゲンは可能であれば出産後まで延期しましょう。妊娠中に歯科治療が必要な場合は、歯科医と相談し、レントゲン撮影の必要性を判断します。
レントゲン撮影が必要な場合は鉛が入っている防護服を着用し放射線から胎児を守ります。これにより、腹部への放射線の影響を最小限に抑えることができます。歯科レントゲンは、虫歯の診断や歯周病の評価、親知らずの位置確認など、重要な情報を提供するため、適切な歯科治療を行う上で非常に大切です。妊娠中であっても、歯科レントゲンの放射線量は極めて低く、適切な防護処置を取ることで安全性を確保できます。
妊娠中でも痛み止めは服用できるの?
消炎鎮痛剤
アセトアミノフェン
妊娠中に安全とされている鎮痛薬です。痛みを和らげるために使用されることが多いです。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
イブプロフェンなどは、妊娠後期には避けるべきですが、妊娠初期から中期にかけては使用されることがあります。必ず医師に相談してから使用してください。それ以外の歯痛、頭痛、生理痛などに使用される薬は禁忌です。
抗生物質、抗菌薬
①安全な抗菌薬
ペニシリン系,セフェム系,マクロライド系,クリンダマイシン
②注意しながら使用可能な抗菌薬
アミノグリコシド系,メトロニダゾール,ST 合剤,グリコペプチド系
③禁忌とされる抗菌薬
テトラサイクリン系,ニューキノロン系
例えば、テトラサイクリン系の抗生物質を妊娠中期以降に使用した場合、赤ちゃんの歯が黄色くなるリスクがあります。
妊娠中で歯科矯正中でも栄養は取れるの?
歯科矯正中は装置の種類や施術によって食べ物の食べにくさは感じることがありますが、特に食事の制限はございませんのでご妊娠中でもしっかり栄養を摂ることは可能です。
ただワイヤー矯正中は固い食べ物や粘着質のある食べ物は矯正装置が破損してしまったり取れてしまう原因になってしまう為お控えください。マウスピース矯正は、マウスピース装着中は食事不可、水以外飲めません。マウスピースをお外しして頂くとご飲食の制限はございません。ただ長時間マウスピースを外していると治療期間が伸びるなど様々なリスクがあります。
妊娠初期(1~3ヶ月)
非妊娠時の摂取カロリーに+50 kcal/日
この時期は胎児の成長が小さいため、エネルギーの追加はあまり必要ありません。ただし、バランスの取れた食事を心がけることがとても大切です。
妊娠中期(4~6ヶ月)
妊娠中期は非妊娠時の摂取カロリーに+250 kcal/日
この時期は胎児が成長し始めます。そのため栄養価の高い食品を選びカロリーを補うことが重要です。糖分や脂肪分の多い食品ばかりではなく、果物、野菜、穀物、低脂肪の乳製品、魚、肉、豆類など、バランスよく摂取することが大切です。
妊娠後期(7~9ヶ月)
非妊娠時の摂取カロリーに+450 kcal/日
この時期は胎児が急速に成長するため、さらに多くのカロリーが必要になります。特に、鉄分やカルシウム、タンパク質などの摂取を意識しましょう。
注意!!!
ビタミンAは過剰摂取により胎児の先天奇形が発生することが報告されているため、取りすぎないように注意しましょう。ビタミンAの食材(例:レバーや魚の肝、うなぎやタラ、卵や牛乳)
まとめ
妊娠中に歯科矯正を始める場合は、一度かかりつけの産婦人科医に相談しましょう。歯科矯正を始める際は検査が必要でレントゲン撮影が必須です。当院では妊娠中のレントゲン撮影は少しでもリスクが伴う可能性があるという点から推奨しておりません。レントゲン撮影後のご妊娠発覚や治療途中のご妊娠などは、継続して治療を行うことが可能なのでご安心ください。
矯正治療中に妊娠が判明した場合、歯科医にすぐに知らせましょう。妊娠のタイミングによっては、治療を延期することが勧められる場合もあります。妊婦さんの場合には、妊娠していること、何週目なのか、ご自身の健康状態などを伝えましょう。
妊娠中の歯科矯正は可能ですが、母体と胎児の健康を第一に考え、歯科医や産婦人科医と密に連絡を取りながら進めることが大切です。